「ザ・パシフィック」第7章〜ペリリュー後編〜

真実だけが持ちうる重み。ザ・パシフィックというドラマは、そのことを痛感させる。
ユージーン・スレッジが初めて経験する戦場は、思い描いていたものとはまるで違い地獄だった。
私は戦争ものが好きだが、その自分をして正視に耐えないと思わせる。
ユージーンの父親は、彼が志願するのを止めようと、戦場帰りの兵士は、みな愛を失い心が壊れていた、お前にはそうなって欲しくないと言っていたが、その意味がやっと理解できた。
夜間、壕の中で突然わめき出し、静かにさせるために仲間に殴り殺される兵士。
上官を失い心が折れてしまう古参兵。
あまりにも凄惨な戦場で、普通の人間はどこまで精神の平衡を保っていられるのか。
最初は仲間の死体損壊行為(金歯の収集)を否定していたユージーンですら、お前もやっていたじゃないかと、日本兵の死体から金歯を取ろうとするが、ギリギリで思いとどまり、代わりに階級章を剥ぎ取る。
そしてペリリューの激戦を終えて、後方基地に戻ったユージーンは、ドリンクを配る若い看護婦の姿を見る。
無言でじっと佇んで看護婦を見つめるユージーン。
目の保養が済んだらさっさと行けと野次った兵は、ユージーンの目を見て薄ら笑いを引っ込め凍りつく。
なぜならその目には生者の光がなかったから…。
初回の感想でも書いたが、「戦場は地獄だ」という言葉が、誇張でも何でも無く、正しく真実なのだ。
しかし、戦争は怖いよねとか、人殺しはいけないよねとか、そういうヒューマニズムあふれる言葉は、まるで戦争を理解していない軽薄な言葉であることも浮き彫りにさせる。
守りたいもののために戦う人間たちが、斯様な地獄の果てにそれを成し遂げているのだとすれば、その恩恵を被っている我々の成すべきことは、彼らに対する敬意しかないのだ。
あの地獄を戦っている兵士たちに、戦争の善悪を問い、その責を追わせることが、いかにナンセンスなことか。
ザ・パシフィックは、アメリカ側から見た太平洋戦争であるけれど、皮肉にもそれだからこそ、今の日本を覆う戦争に対する言動の歪みや幼稚さを知らしめてくれる。